■『工場』として、あるいは『建築』として
−排除と配列をコントロールする−

□敷地・用途
敷地は名古屋市内の港に近い工業地域にある。この辺りは元々工場地帯であり、いわゆる名古屋市の外れの方であった。しかし、昨今の不況により多くの工場の閉鎖に伴い、賃貸マンションや大型スーパーなどが中心地より領域を拡大していて、新たに住宅地帯と工場地帯のエッジになりつつある場所である。用途は線路用の配電盤を入れる鋼製の箱などを製作する工場の増築である。

□設計条件
施主からの要望は、「これまで、既存の工場の他に離れた場所に倉庫を借りていたが、会社の売上も低下しているため、リストラの一環として、倉庫を借りる代わりに工場を増築したい。それは、既存の工場の同等以下のコストでつくりたい。しかしせっかくつくるのだから『工場』として十分な機能を満たし、『建築』としてデザインされたモノにしたい。」とのことであった。

現在、既存の工場を含め、周辺の工場はほとんどが鉄骨造、外壁は波型スレート、折板屋根、内装は仕上げなしで開口もできるだけ少なく、正面に大きなシャッターというモノであり、全て必要最低限の機能材のみでつくられたローコスト工場である。

□排除と配列をコントロールする
ここで行なわれたのは、徹底的に不要なモノを排除することと、残されたモノの配列をコントロールすることだけであった。しかし、この排除と配列のコントロールにより、この建物が『工場』として、あるいは『建築』として、それぞれ自律した論理により構築されたモノとして、表現されうるのではと考えた。つまり、この部分はローコストのためこうなってしまったとか、デザインのためにこうしていますとかいったような、他方の面から見るとネガティブに捉えられそうな要素を、仕方なく「折り合い」をつけ、調整されたものではなく、あらゆる部分が『工場』として、あるいは『建築』として自律的な二面性をもつ、一つの物理的な『建物』として表現されうるのではと。

具体的な設計プロセスでは、それぞれの論理は一度分離して捉えられ、建物の全体を含めた全ての部分要素は、並列なレイヤーの上でスタディが行われた。その中から『工場』あるいは『建築』という二面性を構築できる要素だけが同時に選び取られ、それらのレイヤー統合し、一つの建物として構築された。

□要素を選び取る − レイヤーを統合する
建物は必要な面積を確保するため2層とし、間口は敷地最大、高さも敷地上部を通る中部電力の高圧電線による高さ制限ギリギリとされた。階段は外部階段とし、天井には建物の隅々まで移動できるホイストクレーンが上下階ともに設けられ、上階の床には荷揚げ用の吹抜けが開けられた。構造は鉄骨造ワンスパンラーメンとし、柱スパンは既存建物に合わせた。(しかし着工後近隣からの日当たりが悪くなるとのクレームにより、建物配置の変更を余儀なくされ、既存と柱の位置がズレルことになる。)

外壁は防火構造のためプラスターボード+波型スレート、屋根は折板、内装は仕上げなし。開口は東西面と南北面で、機能が分けられた。東西面は西日を避けながら、東西に流れる夏の季節風を取り込むよう、高さを抑えた横長の引き違い窓とし、南北面は主に採光用とし波型ガラスとする。これと同時に東西面と南北面では波型スレートは異なる山高のものを用い、面による違いが強調された。

南面は波型ガラスを千鳥に配置し、できるだけ少ないガラスの量で、工場内部全体に均等に光を取り入れられるようにすると同時に、ドア、シャッターなどを波型スレートの割付に合わせ、波型ガラスがデザインとして千鳥にされているかのように配置された。

また、南面周囲にはアクセントとして、オレンジの枠がまわされた。これは建物の正面を強調するのと同時に、正面の採光用の波型ガラスの汚れ防止の水切りでもある。また、外部に突き出した庇と、外部階段の先端も同じ色が着色された。これはトラックなどの衝突防止の役割を果たす。また、内部のホイストクレーンも同色に塗られ、内部と外部の統一性が図られた。

また、鉄骨は工場塗装による黒とし、内壁は外壁のプラスターボードを裏面貼り(表は黄色)とし、あえて何もしていないかのような、無彩色のインテリア空間とされた。

西側に書かれた企業名サインは、新聞の見出し広告のように、周りの黒のみが着色され、中は下地の色(スレートの色)が表しにされた。サインが建物から遊離しないようにとのことであった。

また、南面のドアに貼られているステンレスのA・Bのプレートは、下の階がA階、上の階がB階であることを表す。このステンレスプレートは、施主が自分の工場のレーザー加工機で切り抜いたもので、工場に来た客に、商品サンプルとして見せるためのモノでもある。また、外部階段の手摺の支柱とコーナーのRも、同じく施主がレーザー加工機で切り抜いたものであり、階段に軽やかさを与える要素にもなっている。

□28万/坪
今回最終的なコストは建築本体で約2,800万円(28万円/坪)であり、既存の工場と同等以下のコストでつくることができた。住宅地帯と工業地帯のエッジに建つ、排除と配列がコントロールされた『工場』である。